[のれん]
譲受会社は譲渡対象事業の資産・負債を時価で受け入れ、支払対価との差額を税務上ののれんもしくは負ののれんとして計上し、5年で均等償却します。
[消費税]
事業の譲受は消費税における課税取引に該当するため、譲渡対象資産に課税資産がある場合は、消費税の課税対象になります。基本的に、譲受会社は消費税の仕入税額控除により消費税を取り戻すことが可能です。
[欠損金]
事業譲渡では、譲渡会社の繰越欠損金を引き継ぐことはできません。
[譲渡益課税]
時価での取引が原則であるため、含み損益のある資産を譲渡した場合、譲渡会社には譲渡損益が発生します。事業譲渡においては、税制適格要件は存在しないため、課税の繰り延べは認められていません。
事業譲渡における最も基本的な会計処理は以下(木俣貴光「企業買収の実務プロセス」 中央経済社)の通りです。
譲受会社は譲渡対象事業の資産・負債を時価で受け入れ、支払対価との差額をのれんとして計上します。のれんは20年以内に償却します(実務上は税務上の取り扱いに合わせて5年での償却が多い)。
[簡易事業譲渡・譲受]
譲受会社は、他者の事業の全部の譲受について、譲受の対価として交付する財産の帳簿価格が譲受会社の純資産の5分の1以下の場合は簡易事業譲受に該当し、株主総会決議を省略できます。
一方、譲渡会社は、事業の全部または重要な一部の譲渡について、譲渡する資産の帳簿価格が譲渡会社の総資産の5分の1を超えなければ株主総会を省略できます。
[略式事業譲渡・譲受]
譲受会社が譲渡会社の議決権の90%以上を所有している場合、譲渡会社の株主総会を省略できます。また譲渡会社が譲受会社の議決権の90%以上を保有している場合、譲受会社の株主総会を省略できます。ただし、略式事業譲渡・譲受の場合でも、反対株主による買取請求手続きは省略できないことに注意が必要です。
[譲受会社による商号の継続利用]
譲受会社が譲渡会社の商号(会社名)を譲渡後も利用する場合、譲受会社は譲渡会社の債務の弁済義務を負うことに注意が必要です。あるいは、商号を利用しない場合でも事業に関する債務を引き受ける旨の公告をしたときは債務の弁済義務を負います。
ただし、商号の利用に関して、譲渡会社の債務を負担しない旨の登記をするか、遅滞なく第三者に対し、その旨を通知した場合には債務の弁済義務は負いません。
[財産・契約上の地位の移転、許認可など]
事業譲渡は合併や会社分割のような包括継承ではないため、以下のような個別財産の所有権の移転手続及び契約上の地位の移転手続き(再契約)、許認可などの再取得が必要となります。
(1)売掛金
(2)受取手形
(3)動産
(4)不動産
(5)買掛金
(6)支払手形
(7)契約上の地位
(8)知的財産権
(9)従業員の引継ぎ
(10)許認可など(ケースbyケース)
[競業避止義務]
事業譲渡の場合、原則的に譲渡会社は競業避止義務を負います。会社法21条の規定によると、譲渡会社は同一市町村およびこれに隣接する市町村の区域内において20年間は同一の事業を行ってはなりません。だたし、双方合意した場合は、この限りではありません。
[取消権・否認権]
事業譲渡が不当に低廉な価格で行われた場合、特定の債権者への弁済目的で行われた場合、破産直前に行われた事業譲渡が債権者を害する場合などは、事業譲渡が取消、否認される場合があります。業績不振の企業から事業を譲り受ける場合は、これらのリスクを認識する必要があります。
事業譲渡に関する一般的な手続きは以下の通り(木俣貴光「企業買収の実務プロセス」 中央経済社)です。
譲渡会社は事業の全部または重要な一部の譲渡、譲受会社は事業の全部の譲受について株主総会での特別決議が必要になります。
ただし、略式事業譲渡(譲受)・簡易事業譲渡(譲受)に該当する場合は株主総会を省略できます。
なお、事業譲渡では債権者保護手続は不要です。
メリット:
(1)買い手企業は必要な資産・負債だけを選んで買収できるため、不要な資産・負債を抱え込む必要がありません。
(2)簿外債務を引き継ぐ恐れがありません。
デメリット:
(1)個別財産の所有権の移転手続きや契約上の地位の移転手続(再契約)、許認可などの再取得が必要なため手間と時間がかかります。
(2)税制適格組織再編制度による税務上の優遇措置がなく、登録免許税や不動産取得税などの税負担が重くなります。
また、譲受側には課税対象資産に対して消費税がかかります。
事業譲渡とは、一定の営業目的のために組織化され、有機一体として機能する財産の全部または一部を他に譲渡することをいいます。単なる資産、権利・義務の譲渡は、事業譲渡にあたらないことに留意が必要です。
M&Aの一手法で、企業の営業資産を売却すること。企業の一部の事業部を売却する時等に用いられる。引き継ぐ範囲が限定されているため、簿外債務や潜在的負債を背負い込むリスクはないが、個々の財産、契約等の移転手続きを一つ一つ行う必要がある。