[株式売買価格に対する課税問題]
同族会社間やグループ会社間での株式譲渡ではなく、利害関係の相反する第三者同士の株式譲渡(M&A)においては、価格が恣意的に決定される恐れがほとんどないことから、当事者間で合意した価格が税務上も時価として認められます。
ただし、同族会社間やグループ会社間での株式譲渡は価格決定に恣意性が入る余地があるため別途税務上で規定された方法で評価するなど考慮が必要です。
[買い手側への課税と株主への課税]
株主譲渡で課税が発生するのは株式を譲渡する買収対象企業の株主であり、基本的に買い手側には課税は発生しません。なお、買収対象企業の株主には、当該株主が個人の場合は譲渡益に対して20%(非上場株式の場合。上場株式の場合は、10%)の所得税および住民税が課税され、法人の場合には、譲渡益が法人税の課税対象になります。
[買収対象企業の欠損金、資産の含み損の利用制限]
欠損金および資産の含み損を有する会社(欠損など法人)を買収して持株比率が50%超となった場合、5年以内に以下の事由に該当すると、欠損金の繰越控除や合併による欠損金の引継ぎおよび資産の譲渡損失の損金算入が制限されるために注意が必要です。
(1)欠損等法人が買収時直前において事業を営んでおらず、買収後に事業を開始すること。
(2)買収前の事業をすべて廃止または廃止する見込みである場合に、買収前事業の規模の概ね5倍を超える資金借入を行うこと。
(3)買い手企業が欠損等法人の一定の債権を取得している場合に、買収前事業の規模の概ね5倍を超える資金借入を行うこと。
(4)(1)から(3)の場合に、欠損等法人が自己を被合併法人または分割法人とする適格合併等をおこなうこと。
(5)欠損等法人が買収されたことに起因して、買収前に常務以上のすべての役員が退任し、かつ、買収前の使用人の概ね20%以上が欠損等法人の使用人でなくなった場合において、欠損等法人の非従事事業(旧使用人が従事しなくなった事業)の規模が概ね5倍を超えることとなること。
[連結財務諸表における「のれん」]
株式譲渡の場合、個別財務諸表上(買い手企業による単体の仕訳)ではのれんは計上しませんが、連結財務諸表上は、のれんを計上する必要があります。連結財務諸表上は、買収した子会社株式の時価純資産額を上回る投資金額(買収金額)の部分がのれん(連結調整勘定)として計上されます。のれんは20年以内の期間で償却する必要があり、のれんの償却金額によっては、連結決算上の利益が大きく減少する場合がありますので考慮が必要です。下図(木俣貴光「企業買収の実務プロセス」 中央経済社)参照。

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[子会社株式の減損処理]
買い手企業における子会社株式勘定は、基本的に取得原価で毎期決算書に計上されますが、買収した企業の業績が大幅に悪化した場合、買い手企業は当該子会社株式を減損しなければならない可能性に留意する必要があります。
株式の取得割合:
買収者が対象会社の議決権のある株式数の過半数を取得すれば、株主総会での普通決議により取締役の選任が可能となるため、日常的な事業運営をコントロールすることは、可能となります。しかし、定款の変更や組織再編などの重要な事項については株主総会の特別決議が必要となるため、買収対象企業の経営支配権を確かなものにするには、3分の2以上の株式を取得する必要があります。
株券:
非上場企業の場合、株式発行会社であるにもかかわらず株券を発行していないケースが珍しくありません。その場合は、予め株券不発行会社に変更するか、株式譲渡に際して株券を印刷して発行するよう買収対象会社に要請する必要があります。なお、少数枚の株券を安価でスピーディーに印刷するサービスを提供しているところもあります。
株主が分散しているの場合の対応:
オーナー一人が全ての株式を所有しているケースは一般的には稀で、殆どの場合、株主は複数に渡り分散しています。株主が多い場合、全ての売り手(株主)とそれぞれに株式譲渡契約を締結するのは煩雑な作業となります。
そこで、譲渡の前に売り手(通常は筆頭株主であり、代表取締役)の責任で他の株主から株式譲渡に関する委任状を提出させる方法がよく利用されます。
これ以外にも売り手が譲渡前に事前に全株式を買い集めておく方法なども利用されます。
株式譲渡(譲渡制限株式)に関する一般的な手続きは以下(木俣貴光「企業買収の実務プロセス」 中央経済社)の通りです。

メリット:
(1)株主総会の承認や債権者保護手続きが不要であり、手続きが比較的簡便。
(2)買収後、被買収企業が存在するため、独立性を維持しやすい。
(3)過半数の株式を取得すれば、日常的は事業運営を確保できるため、反対株主がいても柔軟な対応が可能。
デメリット:
(1)被買収企業がそのまま存続するため、シナジー効果が発揮しにくい。
(2)簿外債務を引き継ぐ恐れがある
(3)株主が分散しているため、すべての株式を買い集められない場合がある
株式譲渡とは、買収対象企業の発行済株式を買い手企業が買い取ることによって経営権を獲得する手法で、中小企業のM&Aにおいて最も多いスキームの一つです。